再構造化の試み ~S様の事例~
花粉症が辛い季節ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
東京都昭島市にある、重度知的障害者生活介護事業所 笑プラス(えみぷらす)生活支援員の勝井です。
突然ですが、皆様は「構造化」とは何かご存じでしょうか。
――『自閉症の人たちの特性に沿って環境を整えることを「構造化」と呼んでいます。彼らを取り巻く環境や文脈の意味理解を助けたり、自立した生活が送れるように支えたりするための工夫です』 (藤岡 宏. “5章 受信を助けるための工夫”.自閉症の特性理解と支援[TEACCHに学びながら].ぶどう社, 2007, p.65)
参考文献によるとこのように記載がされています。
身近なものでわかりやすいものに例えると・・・
歩道の点字ブロック 横断歩道の白い線 電車のホームの黄色い線 etc….
こういったものが挙げられます。
また、ご本人がより理解しやすくするために構造化を重ねることを再構造化といいます。
S様の場合
今回はS様の事例を通して、自立課題の再構造化について紹介したいと思います。
S様は知的障害を伴うASDをもつ20代後半の女性です。
彼女は作業の時間にこんな自立課題に取り組まれています。
もし皆さまがこの課題に取り組むことになったらどのように取り組まれますか?
大部分の方は下の画像のように
①バックルを留める
②色ごとに封入する
③右側の完成ケースに入れる
という流れで取り組まれるかと思います。
S様の捉え方を考える
しかし、S様の場合、下の写真のように右側の完成ケースに入れずに無造作に置いてしまうことが多いと
いう問題点がありました(少し細かいのでは?という声も聞こえてきそうですが・・・)。
この問題を解決する為には、置き場所を視覚的に理解しやすくすることが必要であると考え、改善点を整
理しました。
改善点は我々の目線で考えるのではなく、S様目線で考えるように気を付けました。
① 置き場所を指示するカードの写真が3つ貼られているが、封入前のカードと封入後のカードが似てお
り、迷ってしまうのではないか?
② 完成ケースが狭く、入れづらいのではないか?
③ 袋に貼られた水色と青色のバックルの写真が紛らわしい。
改良を重ねて
以上の改善点を踏まえて再構造化を行った結果、下の写真のようになりました。
封入後の写真のみをはることで置き場所を明確化するとともに、完成ケースを取り除くことで完成品を置
くためのスペースも広げました。
しかし、結果は・・・。
再構造化前と比較して、無造作に置くことは変わりありませんでした。
その為、2度目の再構造化を試み、置き場所だけでなく取り組み時の手順にも着目しました。
1度目の再構造化(左の写真)と2度目の再構造化(右の写真)を比較してわかるように、留めたバックル
を入れるケースを追加することによって手順の明確化を図る(バックルを留める→封入する)とともに、
それぞれのケースを色分けすることによって取り組み手順を理解しやすくしました。
その結果・・・。
取り組み始めたばかりの頃は留めたバックルを青いケース以外のところへ置いたり、封入したものを黄色
の完成ケースに入れられていないこともありましたが、その都度指差しやモデリング等で正解をお伝え
し、学習を積み重ねてきた為か、現在は正しい置き場所や手順を守れている日が多くなってきています。
構造化、再構造化を通して
今回はS様の作業課題を通して構造化、再構造化をみてきました。
下記画像が今回の改良の流れです(一番右側が最新のものとなります)。
S様の事例を通して、課題作成時には取り組み方法(何をどこに入れるのか?取り組みやすい手順は?)
を視覚的に理解しやすくすることが必要だと学ぶことができました。
御覧頂いた通り、こちらがS様に寄り添って改良したつもりが的外れなこともありました。
これは今回に限った話ではありません。利用者様それぞれで理解しやすい形は違ってきます。
「支援員である自分がわかりやすい」「他の利用者様にはこれで通じた」等はあまり当てにはならないんですね。
利用者様がなにをどう見えているのか教えてくださるととても助かりますが、コミュニケーションが困難
な利用者様が多い笑プラスではなかなかそうもいきません。
その為、構造化・再構造化において一発でバチコリと上手くハマることはとてもハードルが高く、積み重
ねの支援がとても肝心になってきます。
トライ&エラーの精神で知見を深め、より良い構造化支援ができるように今後も職員一同努力して参る所
存です。