重度知的障害者支援の考え方、組み立て方

社会福祉法人SHIP生活介護笑プラスの佐藤です。

今回は私なりに日々の支援を通して、体系化した支援の考え方についてまとめました。

自分自身の考えの整理も兼ねて皆様にシェアしたいと思います。

 

事前情報

事前情報として笑プラスの簡単な紹介です。

笑プラスは東京都昭島市で事業形態は生活介護として運営をしております。

笑プラスでは主にASD(自閉症スペクトラム障害)の障害支援区分56の重度知的障害者の方々を受け入れています。

強度行動障害の方も多く、社会生活を送る上で困難さを抱えている方が多くいらっしゃいます。

ご利用者のほとんどは言語でのコミュニケーションが困難であり、絵カードや写真カードで意思疎通を図っています。

 

      

 

 

そんなご利用者の方たちの日中活動の場として、作業や散歩等の活動を通して支援を行っています。

詳細は笑プラス紹介記事がございますので、ご興味を持たれた方は下記のリンクからご覧ください。

生活介護笑プラスについてご紹介します🌟

 

自己紹介

まずは私の簡単な自己紹介です。

SHIPに入社してからおよそ3年になります。

以前は重度知的障害者入所施設に1年半、2社の有料老人ホームに合わせておよそ9年勤めていました。

1年半の重度知的障害者の支援経験があるものの、当時の職場のご利用者は介助度が重い方ばかりで、知的障碍者の支援と言うよりも介護的な要素が強かったです。

その為、発達障害に関する知識はほぼ皆無でした。

そして、SHIPに入社してからASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如・多動症)等の発達障害への知識や支援方法を学んできました。

 

自閉スペクトラム症(ASD)とは、人とのコミュニケーションが苦手・物事に強いこだわりがあるといった特徴をもつ発達障害の1つです。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)とは発達障害の一種の病気です。 特徴的な症状として、年齢に見合わない「不注意さ」、好きなこと以外に対する集中力がなくほとんど関心や興味を示さない「多動性」、思いついたことをよく考えずに即座に行動に移してしまう「衝動性」が見られます。

 

入社してからこれまで一貫して最大の悩みと言えば、ご利用者の支援をどのように組み立てていくかです。

前述通り、入社間もない頃は発達障害に対する理解に乏しい私でしたので、ご利用者に何かを伝えること1つとっても妥当な方法が思いつきませんでした。

そんな状態でもなんとか支援をしていこうと、見よう見まねの支援をしていったり、諸先輩方にアドバイスを受けながら、11つの支援を自分の中で振り返り、反省を繰り返すといった毎日でした。

 

そんな失敗と反省の日々(今振り返ると辛い日々)でしたが、得る物が多い3年間でもありました。

そんな毎日を笑プラスで過ごしていく中で、少しずつ支援の引き出しを積み上げていき、支援を組み立てる時の考え方やコツを自分なりに整理することができてきました。

 

 支援の組み立て方

ここからは私がご利用者の支援を考える際に、どういった工程で思考を巡らせているのかをお話していきたいと思います。

1.行動の背景を多角的に捉える

ご利用者の行動には、その行動を引き起こしている様々な理由が隠されています。

言語でのコミュニケーションがとることができれば、質問をして返答をいただくことができますが、言語コミュニケーションが困難なご利用者には質問をしたところで答えは返ってきません。

なので、行動を観察しその背景にあるものがなんなのかを考えていきます。

ご利用者の行動観察をどこまで正確に行えるかが支援を組み立てる為の第1歩であり、肝になる重要な過程となります。

 

考え方の枠組みは大きく分けて以下の通りに分けることができます。

 


①障害の特性

ASDには独特な特性が存在します。こういった特性が利用者の行動を引き起こしている理由になっている場合があります。

 

‣中枢性統合の弱さ

中枢性統合とは、全体の状況を見て理解する能力のことです。この能力が弱いと物事を全体として見ることが苦手で、細部に注目しやすくなります。トンネルビジョンだとかシングルフォーカスなんて言われることもあります。

‣実行機能の弱さ

優先順位をつけて行動することや計画を立て行動すること、注意集中力のコントロールが苦手です。

‣視覚的学習が得意

発達障害では多くの場合、耳で聞いたことを覚えたり考えることよりも、目で見たものを覚えたり考えることが得意です。

 

 


②知的障害

知能機能の障害によって、知的能力と社会生活への適応機能が遅れた水準にとどまり、日常生活において困難を抱えている場合があります。

 


③二次障害

生まれ持ったASDやADHD等の発達障害の特性を理解してもらえずに、社会生活に困難さを覚える中で不安定になり、うつ病や不安障害を引き起こしてしまうことがあります。

 


④誤学習

これまでの経験で得てきた学習が社会的に見て不適切であることがあります。

例としては…

 

物を投げて注目をしてもらう

意思を伝える手段が他害

大きな声を出して意向を通そうとする

 

等が挙げられます。

これまでの環境で本人なりに培ってきた社会との関わり方は様々ですが、中にはこういった社会生活を送る上で困難さを招く誤った学びもあります。


 

こんな風に様々な角度でありのままの事実を捉えることが第一歩となります。

 

 

2.課題の切り分け・抽出

さて、ご利用者の行動について多角的に観察することで情報を集めることができました。

その次に行うのは集めた情報を基にした課題の切り分けと抽出です。

ご利用者の一連の行動の中には、複数の理由や背景が存在することがほとんどです。

なので、一連の行動を細分化してどの行動がどの理由や背景に掛かっているのかを整理していきます。

整理する時には前述した4つのポイントを軸にして考えていきましょう。

①障害の特性

②知的障害

③二次障害

④誤学習

整理ができたら一連の行動の中で、どの部分にアプローチしていくのが効果的であるのか考えていきます。

アプローチ方法は様々ですが、我々定型の常識の枠に囚われず、ご利用者の強みを活かす方向で考えていけると素晴らしいです。

 

3.アセスメント

ここまできたら効果的な行動に対してアプローチをしていくだけです。

どんな方法であれば理解しやすいのか、有効であるのか、2の分析を経ているのであれば見えてくるはずです。

情報を分析して考察した内容を基に仮説を立ててアセスメントを通して検証していきましょう。

仮説が間違っている場合には効果が見られないでしょう。その時はまた1からやり直しになります。

一発で上手くいくことは稀なことです。ネバーギブアップ、トライ&エラー、敵を知り己を知れば百戦危うからず(敵ではないですが)の精神で参りましょう。

 

 最後に

いかがでしたでしょうか。

大まかで概念的な内容になってしまいましたが、支援の組み立て方はこの手順で考え、繰り返していけば当たらずといえども遠からずいった支援を実現していけると思います。

繰り返していく中で自身で支援の組み立て方の引き出しが増え、適切な方向性への考え方の精度が増していくことでしょう。

また、日々の業務の中でご利用者の行動をよく観察をして、常に行動の背景に隠されている要素を考えていく意識を持つことがとても大事になります。

そしてそれは「事実に基づいて考えていくこと」が前提になってきます。

自分が今ご利用者に対して抱いている印象や考えが真実なのか、バイアスがかかっているのではないかと常に疑いましょう。

特に自閉症スペクトラム障害は読んで字の如く、グラデーションのように皆様それぞれで違いがあります。

なので、画一的であったり主観的な見方では見落としてしまう部分が出てきてしまいます。

アンテナを常に広く持っておくこと

そして

メタ的な視点を鍛えること

が支援においては非常に大切な事柄です。

 

最後に私がTEACCHプログラムの基本理念で個人的にとても好きな部分を紹介します。

  • ジェネラリスト(自閉症に関わる人は、自閉症を取り巻くあらゆる問題に精通していなければならないという考え方)であること

  • 「スペシャリストであると同時にその子どもを全体として理解しかかわることができるジェネラリストである必要がある」

私などはまだまだ未熟なのでこの域に達していませんが、ご利用者を理解することから始まる支援を実現する為には、一部分に突出した能力ではなく、あらゆる知識や経験を積んだ包括的な能力が必要であると強く共感しています。

 

以上が私なりの支援の組み立て方の全容になります。

あくまで現時点での私なりの考えでありますので、間違いや見当違いなこともあるかもしれませんが、ご容赦ください。

 

現場からは以上です。