失敗は成功のもと ~2023年の支援を振り返って~

皆さん、こんにちは。東京都昭島市にある、重度知的障害者生活介護事業所 笑プラス(えみぷらす)

生活支援員の勝井です。

光陰矢の如し。今年もあっという間に終わりますね。皆さんにとって2023年はどんな1年間でしたか?

 

失敗とは?成功とは?

突然ですが、皆さんは「蓄音機、白熱電球、キネトスコープ」という3つの単語から何を連想されま

すか?

そう、かの有名なトーマス・エジソンですね。エジソンはこのような名言を残しています。

 

「I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.
    ――私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ。」

 

この名言から、エジソンにとって失敗とは「単なる失敗」なのではなく、成功にたどり着くまでの

「過程」であることがうかがえます。失敗したとしても、「ここがよくなかったから次はこのように

やってみよう」と原因を追究したり、反省点を次へ活かすことを繰り返してこそ、成功できるといえ

ます。


成功するためには失敗を振り返ることが大切。ということで、今回は個人的に今年1年間を振り返り、

特に「失敗したなぁ…」と感じたエピソードを2つだけご紹介いたします。

 

今年1年間の特選・失敗エピソード

~その1~ 「待つ」ことを伝えるには?

S様という女性利用者様は、言葉でのコミュニケーションが苦手、始まり・終わりの理解が難しいと

いった特徴をもっています。

散歩の場面では、待機が発生した際にジェスチャーといった視覚的指示のみでは伝わりにくく、

身体的に制止を行ったり(やんわり腕を掴む、腹部に軽く手を添える等)、声かけすることが必要と

なります。

そこで私は、身体的な制止の代わりに、「マカトン」と簡単な声かけ(職員が「待つ」と発声する)を

用いて、「待つ」ということを伝えられないだろうか、と考えたのです。

 

ところで、皆さんは「マカトン(法)」とは何かご存知でしょうか?

日本マカトン協会によると、このような紹介がされています。


「マカトン法は、ことばやコミュニケーションに困難のある人々のために英国で開発された言語指導法

です。話しことばと共に、サインやシンボルを組み合わせて提示します。

(省略)

サインもシンボルも視覚的な情報です。

ことばの獲得に困難のある方には、絵や物、場所などの視覚的な情報であれば、記憶も理解も得意でる場合が多く見られます。

マカトン法は、得意な情報入力の回路を活用し、使えるコミュニケーション手段をトータルに使って、言語概念の形成とコミュニケーションの成立を図ります。」


(参考:Makaton 「マカトン法とは」 マカトン法とは 2023年12月25日閲覧)


私たちの事業所で使う場面が多いマカトンは以下の2つです。利用者様によって、マカトンを理解されて

いる方・いない方がいらっしゃるため、全ての利用者様に意味が通じるとは限りません。

 

おしまい(終了):両手を握りながら下げる動作で伝える。

                 

 

待つ:手の甲を顎に近づける動作で伝える。

   

 

さて、本題に戻ります。

「マカトン」と簡単な声かけを用いて、「待つ」ということを伝えられるかどうかアセスメントを

行った結果…。

散歩時の周囲の刺激(人や物の動き・音)が多いためか、マカトンに着目する様子はあまりなく、職員

の動きに合わせて止まる様子が見られました。当時の私は、アセスメント期間が5日間と短かかった

ため、アセスメント終了後もマカトンの学習状況を1か月間ほど経過観察するべきか、と考えていまし

た。

 

しかし、上司からは、

「待つことを伝える上で『マカトン』を用いることにした根拠が不足している。マカトン以外の方法は

検討したのか?」

「そもそもマカトンについて調べたのか?」

「室外では刺激が多く、マカトンに着目できないことがわかったのになぜ導入するに至ったのか?」

…等々、ご指摘をいただいたのです。

痛い所を衝かれた私は内心涙目。お恥ずかしながら全く説明することができませんでした。


日頃から複数の利用者様にマカトンを使っているからといって、安易に「マカトンを使って待つことを

伝えられないだろうか?」と考えてしまった私。

私たち支援員は、利用者様一人ひとりにあった支援ができるよう、常に根拠を求められます(こちらの

事例であれば、「なぜ視覚的指示のみでは止まることが難しいのか?」、「止まっていただくためには

どのような伝え方があるか?」、「なぜマカトンが適しているといえるのか?」等が挙げられるかと

思います)。頭ではわかっていたつもりでしたが、指摘されて初めて、根拠や知識のなさに気づかされ

たエピソードでした。

 

~その2~ どうする?散歩時の物品の使い方

こちらもS様の散歩時の取り組みになります。

S様は以前、散歩時にタンポポやパン屋等、興味のあるものに対して強く執着してしまい、歩行を続行

するのが困難な状況でした。そのため、S様が興味を示すような対象物が視界に入る前に感覚刺激物品

(行きと折り返し後で異なる物品)をお渡しすることで興味をそらす、という支援を始めたのです。

また、以前のような強い執着が見られなくなってからも同様の支援を長期間行っていました。

 

提供していた感覚刺激物品(左は行き、右は折り返し後に提供)

 

私がS様と初めて散歩へ行った際、OJT担当の職員から上記のことを教えていただき、S様の前担当者

から引き継ぐ際にも同じ内容を聞かされていたのです。そのため、私はS様の散歩同行時には必ず

タンポポやパン屋の手前になると物品をお渡ししていました。

しかし、ある月のケース会議にて、突然このような意見が挙がったのです。

「以前から、タンポポやパン屋の前で必ず物品を提供するのではなく、S様の執着が見られたらその都度

提供するようにしている。」

「物品の使用目的を理解していないのでは?」

この話を聞いて驚きを隠せない私。                     

(え?!私が聞いていた提供方法と違う!どっちが正しいんだろう…。)  

そこで、S様の散歩時の物品の提供方法について支援員一人ひとりにヒアリングを行いました。

その結果、提供方法に少しバラつきが見られたのです。

(これは提供方法を統一しなくては…!)

ということで、「現在は強い執着が発生することがほぼない」という現状を踏まえ、物品を提供する

タイミングを以下のように変更してアセスメントを実施したのです。

 

変更前:①パン屋やタンポポ等、強い執着が見られていた地点で毎回物品を提供する。

    ②折り返し地点に来たら折り返すことを伝えるため別の物品を提供する。

変更後:①執着が発生したら、その都度物品を提供する。

    ②折り返し時に必ず物品を提供するわけではないため、物品を1種類のみに変更。

 

アセスメントの結果、執着を示す場面はほぼ見られなかったため、変更後の提供方法に統一することと

なりました。


支援方法が統一されておらず、支援員によって異なってしまうと、最も不利益を被ることになるのは

利用者様ですが、支援員側もどうすればよいのか困ってしまいます。統一された支援を実現させること

の難しさや、「過去」にとらわれず、「現在」の様子から適切な支援方法を発信していくことの大切さ

を感じたエピソードでした。


 

以上、2つのみでしたが、今年1年間の特選・失敗エピソードでした。皆さまはどう思われましたか?

私は、反省しながら入力しているだけでも冷や汗が出てきそうでした。

最後にもう一つ、エジソンの名言を

「Our greatest weakness lies in giving up.

 The most certain way to succeed is always to try just one more time.

        ――私たちの最大の弱点は諦めることにある。成功するのに最も確実な

                                                方法は、常にもう一回だけ試してみることだ。」

 

                                                               

 

 

たった1度の失敗で取り返しのつかないことになることや、時には見切りをつけなければならないこと、

失敗が失敗のままで終わってしまうこともありますが、「失敗から学び、次に活かす」という精神で

来年も精進してまいります。また、成功したとしても、モニタリングを怠らないようにするとともに

成功から学んだことを次に活かすことを忘れないようにしたいと思います。

 

寒い日が続きますが、皆さま、どうぞご自愛くださいませ。

 

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